photography by SHIN’YA Yasuaki |
九州大学 久米 弘
はじめに
1995年春、前任校(青森公立大学)でのこと。一期生が3年生になったとき、「情報処理技術と心理学」を講義することになっていた。それまで、この学年は学長の話と言えどもまともに聞かず、私語が大変に多い学年と聞かされていた。実際に授業をしてみると…
- OHPを利用しようとしたが、実物投影機がOHPを兼ねていた。中央に設置されたプロジェクターによる映像は暗く、非常に見にくかった。暗幕を引けばそれなりの映像は確保できたが、空調が無いので、蒸し風呂となってしまう。
- ワイヤレスのピンマイクをネクタイにつけて話してみても、(応援団にいたことがある久米でさえ)なかなか声が通らなかった。
photography by SHIN’YA Yasuaki「今なんて言ったの?」「なんて書いてあるの?」といった疑問を口に出すことからも、私語が発生する場合があると思われる。さすれば、少なくとも前述の2つの問題点について解決しておけば、私語の発声を多少なりとも押さえられるのではないだろうか。そして、これらの問題は、講義を行う教員側で解決しておく必要があり、また、教員側で解決できるものだ、とも考えていた。
OHPは予算要求をして、なんとか購入しもらう。
マイクは…ネクタイに付けるのではなくて、できるだけ口に近いところに固定できないだろうか…ヘッドセットにすればいいか…でも、マイクのカタログでは見たことが無いぞ…
マイクスタンドへのひらめき
そんなこんな、考えていたある夜のこと。自宅でごろ寝をしていたときであった。
スーツをクリーニングに出したときに付いてくる針金製のハンガーに、バスタオルがかけてあった。ごろ寝をしながら、それを見るとは無しに見ていた。
ところで、針金製のハンガーにバスタオルをかけて、それを取るときにズルリと引っ張るとどうなるか。針金がだらしなくノビてしまうのである。
その、だらしくなくノビた針金製のハンガーとバスタオルに目が移り…「あの、ノビたところに首を入れ、かける部分を90度回してそこにピンマイクをつければ、マイクは口に近づくぞ…」
早速、工作を始めた。
余談だけれどもOHPの準備
600WクラスのOHPを2台、学務課におねだりし購入に成功した。
OHPシートには、40ポイントを基本として文字を書き、フォントは太楷書体とPOP体を利用することにした。
おわりに
1999年前学期は、「大学とは何か−ともに考える−」という授業を分担していた。6月30日(水)、「情報化社会と大学」と題して六本松のN110教室で授業を行った。
この時、前述のようなマイクスタンドの来歴を自慢気に話したところ、次のような感想を書いて下さった学生さんがいた。曰く、ピンマイクは胸の位置に付けた時にもっともよく音をひろうようあらかじめ設計されているはずである。にもかかわらず、わざわざ口の前に持ってくることはナンセンスである。携帯電話を口の前に持ってくることはないではないか、と。
photography by SHIN’YA Yasuaki確かにその通りであると思う。
残念ながら、前任校のマイクは感度がよくなかったし、現実に口の前に持ってくることで非常に声がよく通るようになった。
六本松での授業で使ったマイクは、前任校でのマイクに比べると確実に感度がよかったが、それでも口の前に持ってくることでよりいっそう声がよく通るようになった。
photography by SHIN’YA Yasuakiもっとも、これらは、久米の感覚に基づく測定値であり、正確さを欠くという批判は当然有りうる。受講した学生さんの感想の中には、声が後ろまで聞こえた、という指摘もあり、あながち不正確ということでもあるまい、が。
久米が講演を頼まれるような施設では、古い、感度の悪いピンマイクが利用されることが多いため、未だに、このマイクスタンドは重宝している。
photography by SHIN’YA Yasuaki余談ながら、先ごろ、折りたためるように工夫し、持ち歩けるようにした…